起立性調節障害には
鍼灸治療が有効です!
朝体調が悪く学校に行けない、休みがちになるお子さんの原因は一人ひとり異なります。
その中でも、たちくらみや失神、動悸、頭痛などの症状を伴い、思春期に好発する自律神経機能不全の一つ「起立性調節障害」は、適切な治療が必要となり、回復する病気です。
起立性調節障害は、鍼灸治療で改善されます。
起立性調節障害は、交感神経と副交感神経のバランスが崩れる病気です。そして、鍼灸治療は、起立性調節障害に最も効果のある治療法の1つです。鍼灸治療は、薬のように副作用もなく、自律神経機能を正常に働かせる治療法です。
鍼灸は馴染みのない治療法かもしれません。肩こりやひざの痛みなど、お年寄りや痛みに対しておこなう治療だと思われる方も多いのではないでしょうか。
しかし、鍼灸治療は、本来、自律神経の働きを意図的に整えることができる治療法です。
WHO(世界保健機関)の伝統医学部門、鍼灸に関する報告書の「臨床試験によって有効性が証明された」という疾患・症状には、うつ症状、頭痛、頚部痛(首の痛み)、腰痛、吐き気、低血圧、高血圧などが明記されています。また、頭痛に対しては、日本頭痛学会のガイドラインの中で最も効果のある治療法の一つとして鍼灸治療があげられています。
起立性調節障害とは
起立性調節障害は、自律神経系の異常で循環器系の調節がうまくいかなくなる疾患です。
主に小学生中学年から中学生の思春期前後の小児に多く見られ、起立時にめまい、動悸、失神などが起きる自律神経の機能失調です。
はじめは、午前中は調子が悪く、脳に十分血液が通わないため、授業や仕事に集中出来ないことが多いですが、夕方には回復するため、「怠け病」と扱われて辛い思いをすることもあります。
また、朝起きれない、頭が痛い、学校に行きたくないなど「いじめかな?」ともとられるような不登校の症状ですが、本人の意志とは無関係にあらわれる症状です。れっきとした病気なので治療が必要となります。
起立性調節障害の多くは、自律神経に関係する末梢血管交感神経活動が低下してしまう病気です。
起立性調節障害チェック表
次のような症状は、起立性調節障害かもしれません。
診断は、次に掲げる「チェックリスト」うち3つ以上当てはまり、かつサブタイプのいずれかに合致することとなっています。 (起立性調節障害サポートグループ)
チェックリスト
- 立ちくらみやめまい
- 起立時の気分不良や失神
- 入浴時や嫌なことで気分不良
- 動悸や息切れ
- 朝なかなか起きられず午前中調子が悪い
- 顔色が青白い
- 食欲不振
- 腹痛
- 倦怠感
- 頭痛
- 乗り物酔い
起立性調節障害のサブタイプ
① 起立直後性低血圧
第1に多いタイプは、起立直後性低血圧です。英語ではinstantaneous orthostatic hypotension、INOH、アイノーと言います。
アイノーは、起立直後に一過性の強い血圧低下があり、同時につよい立ちくらみと全身倦怠感を訴えます。血圧回復時間が25秒以上であれば、アイノーと診断できます。
アイノーには、軽症型と重症型がありますが、起立時の血圧低下が強く、収縮期血圧が15%以上低下したままであれば、重症型と診断します。
アイノーの起立時のノルアドレナリン分泌は低下しており、重症型ではその障害が顕著です。
小児では代償的な頻脈を認めます。
② 体位性頻脈症候群
2番目に多いタイプは、体位性頻脈症候群です。
英語でpostural tachycardia syndrome、略してPOTS、ポッツと言います。
ポッツは起立時の血圧低下はなく、起立時頻脈とふらつき、倦怠感、頭痛などの症状があります。
起立時の心拍数が115以上、または起立中の平均心拍増加が35以上あれば、ポッツと診断します。起立中に腹部や下肢への血液貯留に対して、過剰な交感神経興奮やアドレナリンの過剰分泌によって生ずると考えられています。
③ 血管迷走性失神
3番目は、血管迷走性失神です。
英語でneurally-mediated syncope、略してNMSといいます。
起立中に突然に収縮期、拡張期血圧が低下し、症状が出現します。
発作時に徐脈を起こす場合もあります。
通常は、起立中に過剰に頻脈が起こり、そのため心臓が空打ち状態となり、その刺激で反射的に生ずると考えられています。
したがって、アイノーやポッツでもNMSが起こります。
失神発作を主訴とする患者の検査陽性率は、欧米では20~64%と報告されており、珍しい疾患ではありません。
④ 遷延性起立性低血圧
4番目は、遷延性起立性低血圧です。
起立直後の血圧反応は正常ですが、起立数分以後に血圧が徐々に下降し、収縮期血圧が15%以上、または20mmHg以上低下します。
頻度は余り多くありません。
静脈系の収縮不全と考えられ、拡張期圧は上昇し脈圧の狭小化を招きます。
日本小児心身医学会編 小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン(改訂版)では、以下の新しいサブタイプが記載されていますので、紹介します。
⑤ 起立性脳循環不全型
5番目は、脳血流低下型(起立性脳循環不全型)です。
これは、起立中の血圧心拍変動は正常内ですが、起立中に脳血流が低下して、それに伴う様々なOD症状が出現します。診断には、脳循環を測定できる特殊な装置(たとえば近赤外線分光計(near-infraned spectrocopy;NIRS)を必要とするため、一部の医療機関でしか診断できません。診断基準も国際学術誌に発表されています。
⑥ 高反応型
6番目は、高反応型です。
これは、起立直後に一過性の著しい血圧上昇を起こし、それに伴う様々なOD症状が出現します。診断には、一心拍ごとに血圧を測定できる特殊な装置(たとえば非侵襲的連続血圧測定装置(Finometerなど)を必要とするため、一部の医療機関でしか診断できません。診断基準も設定されています。
これに加えて、
⑦起立性高血圧型 も報告されています。
これは、起立後に臥位よりもかなり高い血圧になるタイプです。やはりOD症状が出現します。
起立性調節障害の治療
東京大学医学博士、元筑波技術短期大学学長等をされていた西條一止先生の著書や講義では、鍼灸治療が人体に及ぼす自律神経機能の変化を科学的根拠に基づき紹介しています。
このメカニズムを利用することにより、副交感神経が優位になり誘発する喘息発作を改善することも可能ですし、末梢血管交感神経活動が低下してしまう起立性調節障害にも応用することができます。また、現在の体質を東洋医学的診断、治療からもアプローチすることで起立性調節障害の症状改善、再発防止につながります。
ただ、注意すべき点は、以上のようなメカニズムを正しく理解し治療に反映しなければ効果が出ません。
当院では、西條一止先生が学長を務めていた「東洋医学臨床技術大学校アカデミー」にも全8期(8年)参加しており自律神経治療の西條イズムを継承しています。
参考文献:
鍼灸臨床最新科学 メカニズムとエビデンス(医歯薬出版株式会社)
臨床鍼灸治療学(医歯薬出版株式会社)
臨床鍼灸学を拓く第2版 科学化への道標(医歯薬出版株式会社)
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01 問診
当院では、まず患者さんから立ちくらみやめまい、失神、頭痛、動悸など気になる症状、悪化する状況をうかがって、体の状態を把握します。
その後、治療内容と今後の方針を極力わかりやすく説明させていただき、患者さんにご納得いただいてから治療に入ります。起立性調節障害は、単に自律神経の病気ではなく、他にもいくつかの原因が関係しています。
その原因を明らかにするため、当院では様々な質問をおこないます。男子では、早産ではなかったのか、学校環境、生活習慣、声変わりや反抗期などを考慮、女子では、加えて初潮を迎えているのか、月経周期は安定しているのか、夜尿症などあるのか、低血圧や貧血はもともとあるのかなど疑わしい項目を「問診」させていただきます。原因不明の発熱から、起立性調節障害が始まることもあるから注意が必要です。
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02 検査
問診後は、実際にからだがどのような状態なのか、確認するための検査をします。
検査項目は、西洋医学的な検査に加え、東洋医学的な診断もおこないますので、脈をみたり、お腹の状態を確認したりすることもあります。脈を診ることで、自律神経の変化や生理周期の変化も読み取ることができるため確認します。
自律神経に関して詳しい情報は自律神経失調症を御覧ください -
03 鍼灸治療
問診と検査等の後は、ベッドに横になってリラックスしていただいた状態で治療を開始します。状態が安定しているときは座位でおこなうこともあります。
(上の写真は、わかりやすくするため座っています。)体の状態が冷えているのか、硬く緊張しているのか、患者さんの主な訴えと関連する部分はあるのかなど把握したうえでその日の体の状態に合わせたツボに鍼灸治療をおこないます。
鍼治療は、小児の場合、皮膚を軽くつつくような小児鍼を使用します。大人用の鍼は髪の毛と同じくらいの太さ0.1mmほど、お灸は、火が直接肌に触れないものを使用していますので、火傷やお灸の痕が残る心配を極力減らします。
お灸は副交感神経を刺激し、リラックス効果だけでなく、血行の促進や抵抗力を高めて体を強くしてくれるといった様々な作用があります。また、鍼治療の後にお灸をすることで、自律神経の活性化の維持する作用もあります。
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04 電気光線療法
患者さんの症状によっては、鍼や灸に加えて、より血行を促すため、運動不足を解消するために電気治療を併用する場合があります。電気治療というと「ビリビリ」という痛いイメージが先行しがちですが、実際には眠ってしまうような心地の良いごく微弱な電流を流す程度です。
電気治療は、鍼灸治療同様に、刺激部位、方法や体位によって自律神経の正常な働きを再学習することができます。
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01 問診
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02 検査
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03 鍼灸治療
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04 電気治療
起立性調節障害のツボ
身柱は、「身の柱」と書くくらい体にとって重要なツボです。もともと、夜泣き、かんしゃく、ひきつけなど自律神経系の治療によく使うつぼで、左右の肩甲骨の間、脊髄にあります。そのため、真鍮の刺激で脊髄反射が活性化し、起立性低血圧のような症状の改善につながります。
百会は、頭のてっぺんにあるツボで、全身にある経絡が交わるところで、全ての臓器と繋がっているとされています。
そのため、全身的に自律神経のバランスを整え、活性化してくれます。脳貧血性の頭痛、ストレス性の歯ぎしり、睡眠障害に対しても対応することができます。
ストレスが蓄積した時、不眠、不安が強い時、症状が長期間続いている時にも効果があり、よく使用するツボです。また、 女性が起こしやすい脳貧血による頭痛などに効果的で、気分がゆううつな時にもよく使用します。
足三里(あしさんり)は、奥の細道で松尾芭蕉が使用したとこでも知られているツボです。
足の陽明胃経に属するツボで、生命活動の源、後天の精を養う脾胃の機能を活性化させてくれる効果があります。一般的に胃腸疾患全般に使用しています。胃腸は自律神経に属する第10脳神経の迷走神経が支配しています。生命力を活性化させることと同時に、自律神経が反応しやすい膝下の刺激をすることになるので、刺激方法によっては交感神経の興奮を促してくれます。
起立性調節障害は一人では治せません。
お子さんと治療家だけでも治りません。
- ご家族が朝起きる手助けをしてあげる
- ご家族が治療のため院まで送ってあげる
- ご家族が落ち込んだ心を癒やしてあげる
などご家族の手助けが必ず必要になってきます。
頑張る必要はありません。
無理せず、できることからやっていきましょう。